その少年には名前がなかった。
いや、正確にはわからないといったほうが正しいか。
その少年の父親は警察の人間にも一目置かれるほどの推理力でいくつものなん事件を解決してきた。
あまりにたくさんの事件を解決してきたためか、命を狙うような人間も多かった。
その父親は自分を狙う人間があとを立たないため、死んだ。しかし、それは戸籍上の話である。
死んだその男はまったく別の男として、名前を変えて行き続けた。
そして子供が生まれ、幸せな家庭を築く、はずだった。何らかの方法で本名と新しい名前、居場所を突き止めた犯罪者がいた。
その犯罪者はその父親と母親を殺した。
生まれたその子供は生まれた子供は自分の名前が分からなかった。あるのだが、分からなかったのである。
そして名前のないまま育っていった。
そしてあるとき、その少年はとある事件に巻き込まれた。
その事件が解決した後で、その事件を通して知り合った一人の男は少年に対してこう言った。
「私の孤児院へ来ないかね」
その孤児院へ行った少年はとある一室に通された。
その少年は少し待たされ、その部屋に実質、院長だという男と、院の創設者と名乗る男が入ってきた。
院の、2人の優しい目と、少年の、若いのに大きなくまのできた目がぶつかった。
そして数分の沈黙の後、院の創設者と名乗る男が口を開いた。
「ようこそ、我が孤児院へ。私は院の創設者のキルシュ・ワイミーです」