その男は年老いた目で少年を見つめ、静かに口を開いた。
「私はキルシュ・ワイミーです。よろしく」
もう一人も口を開く。
「そして私はロジャーです」
ワイミー「ここはほかの孤児院とは少し違い、個別にいろいろなことを学べます。そして、月に1度、テストがあり、順位が出ます。絵描きや弁護士などみんながそれぞれさまざまな夢を持ち、実現に向かって努力しています」
少年「でも、私には名前が・・・」
その少年は今までほかの子供と関わることがなく、いつも大人を見てきた。そのせいか、大人のような考えと話し方が身についてしまっていたのだ。
ロジャー「問題ありません。この院では名前は特に意味がありません。親に捨てられた子や親のいない子が多いのでここでは名前は使いません。その代わり、一人にひとつ、ある呼び名をつけて、ここではその呼び名で呼び合ってもらいます」
少年はその言葉を聞いて、わずかに口を動かした。笑ったのだ。この少年が心から笑ったのはこれが最初で最後だったかもしれない。
ワイミー「あなたは・・・まだこれから光り輝く可能性を秘めています。この院でのあなたの名前は・・・“ルナ”です」
ルナ「ルナ・・・」
ロジャー「それではルナ、これからこの院について・・・」
少年A「きみ、新しくここに入ったんだろ?ルナ、だよな。さっき扉の前で立ち聞きしていたんだ。でも、いいなー」
ルナ「何がいいのですか?」
少年A「普通はサム、とかロイ、とか特に意味のない名前がつくんだけどね。ワイミーさんには才能を見抜くような洞察力があって、特にすごい可能性を秘めていると思った人にはその言葉に意味のある名前、僕たちは称号って呼んでほかの人と区別してるけどね、そういう名前をつけてもらえるんだよ」
ルナ「ではこのルナ、にも何か意味があるのですか?」
少年A「きみ・・・全然勉強してないんだね・・まあ今日拾われたばっかりだから当たり前か・・あのね、ルナ、はローマ神話の月の神の名前だよ。ヨーロッパでは月を指す言葉なんだ。」
ルナ「月・・・」